~~~花の匂いを嗅ぐのが好きな牛の話
稲田陽子 その昔『エコ・ろじー』に絵本について書いた 文章が見つかった。もう20年は経過する。 さて、自然界は花の季節、ユーモアやアイロニーも漂う興味 深い内容の絵本『はなのすきなうし』の世界にしばしの ご案内を…。 ………………………………………… はなのすきなうし 今回紹介する絵本『はなのすきなうし』(文/マンロー・ リーフ 絵/ロバート・ローソン)は、スペインの 伝統的な闘牛には当てはまらない牛の話である。つまり 闘いが嫌いで、花に触れ、花の匂いを嗅ぎながら暮らす のが、この牛、フェルジナンドの生きがいであった。 フェルジナンドは、仔牛の頃から草の上に座り、また、 気に入りのこるくの木の下で静かに花の匂いを嗅いでいる のが好きだった。 ほかの仔牛たちが、頭を突っつきあって遊んでいるのにも 加わらない。おかあさんがそんなフェルジナンドを心配して 「一人でさびしくないの?」と、問うが、「ぼくはこうして ひとりはなの匂いをかぐのがすきなんです」と、答えが返って くる。 おかあさんは、聡明だったので、この子を理解し、好きな ようにさせておく。やがてフェルジナンドは成長し、立派な たくましい牛になった。成長したほかの牛たちは、マドリード の闘牛場で華々しく闘ってみたいという夢を膨らませている。 ところが、フェルジナンドは、相変わらず大好きなコルクの 木の下で花の匂いを嗅ぎながら、のんびりと暮らしていた。 そんなある日、知らずにクマバチの上に腰を下ろしてしまった から、大変だ。おしりを刺されたフェルジナンドが大暴れした。 それを見ていたのが、闘牛場で闘う闘牛を探しに来ていた男 たちだった。もちろん立派な体格に加え、ものすごく乱暴な 牛が見つかったと、大喜び。早速、フェルジナンドは、 マドリードに連れて行かれる。いよいよデビューするという 日には、旗が立ち、楽隊まで出る騒ぎとなった。 次々に剣や槍を持った人たちが入場し、最後に得意満面の 大闘牛士が登場すると、とうとう闘牛、フェルジナンドが 現れた。みな、これから始まる大闘牛ショーにワクワク しながら拍手喝采している。そうした人々の期待をよそに フェルジナンドは、のっそりとその場に座り込んでしまう。 それは、見物の女の人たちが皆頭に花を差していたからだった。 その花の匂いを嗅ぐために、フェルジナンドは実にのんびりと ゆったりとした様子で、大闘牛場のど真ん中に座った。 闘牛士たちがどんなにけしかけても、どこ吹く風。フェルジ ナンドは、びくともしないでただ花の匂いを嗅ぎ続けて いたのだった。 この牛は、結局牧場に返された。平和を象徴する花を愛する、 そのフェルジナンドの個性が社会に理解された結末には 思わずほっとする。