南海トラフ後の日本は?

~~~養老孟司さんの『日本が心配』

稲田陽子

南海トラフ巨大地震は、避けがたいものと言われ、
その警戒感も高まっている。これは100年から150年ほどの
周期で必ず起きている地震で、歴史的にもその起源は古く、
有史後の日本の歴史とともに歩んできたのだから、文献にも
その被害などが詳細に記録されることとなった。数ある
ものの中でもっとも有名なのは、方丈記の記載と言える
かもしれない。

この巨大地震は、フィリピンプレートとユーラシアプレートの
せめぎ合う沈み込み帯を震源地として起きるもので、起きる頻度が
低いだけに、いったん起きると溜め込まれていた巨大なパワーが
発散されることになるという。それが大きな被害を誘発する。
養老孟司さんが『日本が心配』という著書の中で対談する京都
大学名誉教授の尾池和夫さんによると、地震が起きるのは2038年頃
と、明言している。

その予測は、研究調査の進化のお陰でかなり精度が増していると
尾池さんは語る。統計的な解釈に加えて、活断層の履歴の研究で
次に起きる地震の予測が格段に進み、その判断に科学の力が
大きく貢献するようになっている。そうして弾き出された
2038年だが、その対策はまだまだ模索の中にあるのが
現状のようである。

養老孟司さんは、防災の対策だけでなく、復興後の日本社会の
状況が気になると言う。東日本大震災の教訓が生かされるのか。
どのように復興後の日本がデザインされていくのか。課題は
多いと著書の中で述べている。

中でも、「部品を交換するのではなく」ゼロベースでのグレート
リセットに言及している。南海トラフは、それくらい巨大な地震や
津波が予測されているということでもある。

しかし、対策には大きな不安がつきまとう。個々人の防災意識の
向上などソフト面よりも、ハード面などの対策には不足感が
高まる。コストがかかってくるものには対策が追いついていない。
まして、頻度の低い地震であるために対策への投資が遅れている
のだというが、大きな問題である。新幹線は、活断層を走っており、
リニアも同様の問題を抱えている。

ただ、ソフト面での対策で気になるのは、経験の逆機能だと、
第二章の対談相手である東京大学先端科学研究センター教授の
廣井悠さんは言う。つまり、これは以前に経験した災害で「大丈夫
だった」という体験が、バイアスとなり、「今回の災害でも
大丈夫だ」と安易に判断してしまうような事柄を指している。
こうした認知は、比較的高齢者に多いと言われているが、
過去の経験がどんなに良くても、避難が遅くなっては元も子も
ないに違いない。

対策もたくさんの課題があるなか、養老孟司さんは、南海トラフ後の
復興にも思いを寄せている。自然と共生する豊かな里山文化に
日本の未来を託す思いも垣間見られる。その文化のもとに
自給自足体制を整えて、もしもの災害にも物流が途絶えないような
盤石な基盤を取り戻すことが必要だというわけである。復興には、
持続可能な新しい文化に自然にシフトされていく種も潜んでいる
のかもしれない。歴史的な転換点に立っているとも言える。

言うまでもなく、自然はニュートラルであり、人がどのように
自然の回復を図っているのかは、如実に現場に現れるようだ。
画一的なブルドーザーによる整地は確実に生態系の破壊に
繋がるとも、自然写真家の永幡嘉之さん(第四章の対談相手)は、
警鐘を鳴らしている。

とはいえ、ソフト面、ハード面共にまずは万全な備えが求められる。
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