~~~エピジェネティックな潮流とともに
稲田陽子 量子力学には、生物学や医学と異なり、生気論と機械論が 共存しているようなものと、『隠された造血の秘密』の中で 著者、酒向猛さんが語る。量子力学では、物質の本質は 粒子的側面と波動的側面が並立し、それぞれが尊重されている 状態だとされているという。ところが、現代の生物学も 医学もそうした意味が問われることはなく、相変わらず 機械論的思考による議論しか行われていないのが現状だ。 これはどうしたことだろうか。著者は、千島学説で唱えられ ている「腸管造血説」や「細胞新生説」が理解されることは、 人間の意識改革なしにはあり得ないと言い切る。つまり、 生気論の発想なしには、理解は得られないというわけである。 これは、物理学の世界では、柔軟な発想がなされていても、 生物学や医学の世界では違うということでもある。そこでは 「定説」がドグマとなり、あるいは弊害となることもあるようだ。 生気論から機械論的発想を主流にしたウィルヒョウの 定説を「神のご神託のごとく」現代医学者たちは信奉している。 そのため、レベシンスカヤや千島喜久男の細胞新生説が 日の目を見ることはなかった。常に定説が覆される可能性は はあるものの、「セントラルドグマ」の前ではそれは 決して大きくはないのが現実である。 しかし、この現実のままにガンを中心に代替医療の流れが 育っていったのも事実である。その中からホリスティックな 医療も発展してきたのも、時代の要求であったにちがいない。 「現代医学の理想像とは、臓器移植や人工臓器や万能細胞で故障 した組織や臓器を入れ替え、それを維持するための化学薬品を 常時注入しているサイボーグ人間という結論になりそうである」と、 外科医の著者が述べるように、現代の医療界がある種の矛盾を 抱えているのを感じさせる。 そこで著者が注目しているのが、ここ昨今のエピジェネティックな 潮流である。生物の進化が遺伝子に全て依存していないのでは ないかという環境との調和を重んじる発想が出てきている。この 発想は、STAP細胞への変わらぬ著者の関心にもつながっている。 ただし、iPS細胞がガン化する可能性があるのと同様に、ストレスから 生まれる細胞もガン化しうるのではないかという懸念を示している。 これに対して、千島学説で言う「赤血球分化説」は、まさに自然 治癒力の成り立ちを存分に表すものと言える。これには「腸管 造血説」を前提としなければならないが、摂取した食物がモネラ となってそこから赤血球が生まれ集結すると、核のある細胞である白血球に 変容、各体細胞が作られていく。これは、良い食べ物を食すると、 良い血液や細胞ができることを示唆している。だから、ガンというのは、 出来損ないの細胞だということになる。この細胞は、赤血球の逆分化 によって、血液に戻っていくと言われている。 自然の成り立ちで、良い細胞が作られ、ガン化を免れるのなら そんな良いことはない。その意味で、赤血球の役割は重要で、 千島は、赤血球を未熟な造血幹細胞と捉えていたと、著者は 書いている。千島学説は、人間が食を通して環境との調和を 求める生物であると、いまも唱えている。ここに自然治癒力を 改善する希望が内包されてもいる。 参考/『隠された造血の秘密』(酒向猛著)