ドームとともに22年

~~~温暖化による雪害、やむなく「取り壊し」に

稲田陽子

燕尾服を身にまとったような黒々とした
立派なカラスが、玄関アプローチに降りてきた。
陽の光を浴びて、黒から紫がかった色合いで
閉じた羽が輝いている。ずいぶん慣れ親しんだ
風情である。連れ合いだろうか、もう一羽のカラスが
すぐそばにいた。燕尾服のカラスに
「ここの住人は、シンセツだからね、庭に入っても
びっくりしないし、怒ったりもしないから、
居心地がいいんだ」(笑)とでも、言い含められていた
かのように、我が庭のごとく安堵している。今度は
どこに止まろうかと思案しているようだった。

初夏の頃には、小ガラスがテラスに遊びに来ては、
かまってやると、ぴょんぴょんと人の後を追ってくる。
全く警戒心がなく、人懐こい。燕尾服のカップル?は、
もしかしたら、この小ガラスの親なのだろうかと、
勝手に想像してみる。
いや、ことによると、小ガラスが成長して、連れ合いを
見つけたので、ちょっと誇らしげに挨拶にでもきた
としたら、メルヘンだ。

繁殖期には、子育てでピリピリし攻撃的になる親鳥
たちも、秋には集団生活に戻り、穏やかに暮らすと
いうが、もともと人懐こい習性を持つカラスたち…。
どろ亀さんの愛称でよく知られ、「森の動物たちと友達
づき合いの得意だった」高橋延清さん(森林学者/当時
発行していた「エコろじー」で取材、交流)ともなれば、
きっともっと気心の知れた間柄になったのは、言う
までもないことだ。そんなことを思い巡らしていると、
2羽のカラスが気まぐれに飛び立った。

「居心地がいい」と言えば、我が家のドームにはさまざまな
人々が訪れ、賑わっていた。これは、バックミンスター・
フラーのドームから着想を得て作られたが、最初の頃は、
手作り的なものだった。そんなドームも、なぜか来る人、
来る人、居心地がよいと言う。実際、フラーのドームは、
「自然の空調」や「自然の気の流れ」に長けているの
かもしれなかった。

さらには自然環境にも恵まれ、喧騒の街から少し離れた
ところにあるドームだけに、訪れる人をほっとさせる
自由さがあったのだろう。夫も、来られる方々も雄弁となり、
垣根がなくなっていく。そうした方々の生業も来し方も
様々だ。医療関係、ガン関連の方々は言うまでもなく、
ジャンル、身分を問わず、集まってきていた。極め付けは、
あの小野田少尉かもしれない。もちろん、普段は従業員も
いて、企画編集の会社として機能していた。まさに、
ドームは夫のライフワークや執筆活動も兼ねた「夢のアトリエ」
のような存在だったと言えるだろうか。もしも夫が、いまも
健在なら、ジャーナリストとして「揺らがない」発信を
していたに違いなかった。

ところが、そんなドームも、年々押し寄せる気候変動の
影響が強くなり、雪害を防ぎきれなくなってしまった。
夫が健在だった時は、夫自らドームにシートをかけて
サラサラの雪をやり過ごしていたものの、次第に雪質が
変わって、温暖化による水分の多い雪となり、ドームが
その重みに耐えられなくなっていった。何度かの改修で、
ドームの保護を行っても、今年の厳しい雪害ではとうとう
ドームが壊れてしまう事態を招くことになった。そのため、
今後のことを考えざるをえなくなったわけである。

いま、ドームには、夫が植えたツタが大きく成長し、
紅葉しながら包み込むように絡みついている。

ご縁をいただいた多くの方々に感謝を込めて…。
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