~~~捉え方の重大な相違、『あの日』に書かれていた小保方さん実験事実とは?
分裂増殖しない?STAP細胞で「キメラマウス」(STAP幹細胞)はできるのか?
作製失敗は「STAP細胞」存否とは無関係では?
小保方実験テーマ「ストレス処理後の細胞の変化過程」…これこそ「千島学説」の切り口?!
稲田陽子
小保方さんの『あの日』を読んだ。全体を通して思われるのは、
この人は、日本独特のトップダウン体制にある研究集団で研究することを
選んで正解だったのかということである。もしも、ハーバード大学の
ヴァカンティのもとでのびのびと研究をしていたら、今回のような
悲惨で絶望的な結論を導き出すことはなかったのではないだろうか。
まして、笹井氏が自ら命を絶つなどということなど起こりえなかったと
思われる。「科学村」の感覚を取り込んだ大手マスコミの論調は、一方的に
歪み明らかに行き過ぎたもののように思われる。
稲田がよく引き合いに出していた山本七平の『空気の研究』は、いまこそ
メディア人にも市民社会にもメディアリテラシーのお手本ともなるべき
ものではないだろうか。
その意味で、民主主義の成熟度はネット社会で図ることもできるということも
あり得る。単にバッシングの嵐という一本調子の論調であるなら、警戒した方がよい。
この問題に限らず、さまざまな多様な視点が存在するかどうかが一つの目安である。
大手メディアが偏向した報道に片寄ったと思われるときにこそ、メディアリテラシーに
一役買うさまざまな視点が必要になるのではないだろうか。ただし、
それは、あくまでもネット民主主義の成熟度が試されるということでもある。
そうした意識を市民社会に生きる一人一人が持たなければ、進化は期待できない
のかもしれない。
この危うい情報社会を背景に、小保方さんがさまざまな真相を自分の言葉で
語っている今回の書籍からは、ある手応えは感じられた。
確かに小保方さんは、論文では今回のようにずさんなミスをしてしまうイメージが
出来てしまったが、書籍の中の小保方さんは、徹夜も辞さないような熱心な実験オタクであったという印象が強く打ち出されている。だから、実験のアイディアがうまく反映され、確認されていけば、それだけで大きな満足感や達成感を引き起こしていたのではないかと想像される。そのためかどうかは不明だが、例えば論文のように緻密な整合性を持って第三者にも実験を立証できるようにする記録作成などへの関心は二の次に
なってしまう傾向のある人だったように見える。これは、当然プロの研究者のあるべき
姿ではないとはいえ、小保方さんを語る上で、非常に大切なポイントであると思われる。これがために小保方さんのせっかくの実験成果の足が引っ張られることになったとしたなら、そんな残念なことはない。
この実験熱心な研究員が、ヴァカンティにも気に入られ、バカンティのスフェア細胞の
アイディアを具象化していったのが、後の「STAP細胞」である。小保方さんが行なった
実験は、このSTAP現象と呼ばれる段階で達成される細胞の初期化現象までであり、
正確に言うなら、その際に得られた細胞を「STAP細胞」と呼ぶわけである。
この後のSTAP幹細胞の樹立とキメラマウスの作製は若山さんの担当であり、小保方さんは作製に関わることはなかったという。キメラマウス作製の技術の教授を願ったことは
あるが、なぜか断られてしまったからだ。
ここから一つ重要なことが理解される。それは、STAP幹細胞が樹立されず、そのために
キメラマウス作製に失敗したとしても、小保方さんが主張するように、そのまま
「STAP細胞」が存在しないことにはならないということだ。
この「STAP現象」が観察された「STAP細胞」は増殖能が低いという特徴があり、
それは小保方さんも若山さんも周知のことだった。それをどのようにして分裂増殖
させて「STAP幹細胞」にできるのか。若山研究室では、大きな課題を抱えたまま、
STAP実験が続けられたようだが、もしもこの細胞が「分裂しないで初期化した」
という小保方さんの観察事実を重視したなら、あるいは、仮に「千島学説」が知られる
ところであったなら、実験結果にどう影響し、どのような経緯をもたらしたことだろうか。
そもそも実験とは何か。事実をありのままに観察し、その結果を持って
次回のアイディアにつなげていくものではないのか…。
『あの日』を読む限り、小保方さんは、自分の目で実験結果を見て、洞察し、
さらなる問題を提起しているように思われた。しかし、現実には実験の方向性は
変わることがなく、小保方さんのSTAP細胞作製後は、若山さんの実験が予定通り
進められたそうだ。
結果的には実験は失敗に終わったが、それが確認される前に行なわれた小保方さんの
記者会見では、論文の疑義も加わり、小保方さんが「STAP細胞はあります」
「STAP細胞は200回作製に成功した」などと必死に訴えたところで、マスコミや
ネットでは「200回もキメラマウスを作ったというのはあり得ない」などという論調が
優位になり、さらなるバッシングを招くことになった。「STAP細胞はあります」が
「STAP細胞はありまぁす!」となって、流行語大賞にまでなるほど、マスコミと
世間に歪められていった。
P87、P88に、「若山研の研究員の協力を得て、(略)ストレスをかけた後、自家蛍光
ではなく緑にのみ光る細胞の存在を確認また赤く光る死細胞とOct4 陽性となり緑に
光りだす細胞を明確に見分けることができた。特に興味深かったのは、細胞分裂を
することなく細胞が小さくなり緑に光り出す現象を捉えることができたことだった」
という記述がある。
これは、小保方さんが既存の科学では説明のつかない重要な現象を発見していることを
意味している。この文は、さらにiPS細胞の作製過程との違いにつながり、STAP細胞は
iPS細胞とは異なり、細胞分裂を必要とせずに初期化している可能性があるという重要な
発見について以下のように報告している。
「ips細胞作製過程では、(略)体細胞の初期化のためには細胞分裂が必要だと
考えられている。しかし、ここで見られている現象は、細胞分裂を必要とせずに
細胞の初期化が起こっている可能性を示唆していた。ips細胞の作製過程で起こる
初期化とは全く異なるメカニズムによってOct4陽性の細胞ができてくる可能性を
示したこの実験結果から、ストレス処理後に起こる細胞の変化過程に対する私の
興味はさらに強まった」
この記述内容を小保方さんが記者会見で語ることができていたら、事態は違っていた
だろうか。「STAP細胞はありまぁす」が「流行語」にならずに済んだだろうか。
否、あの場のある種空気呪縛に陥ったマスコミの前では、そこまで語る意識には
なれなかったのは容易に想像がつく。
それよりも、まず、自分の運命を左右する理研や上司への気遣いや対外的な配意が
先立っていたとも受け取れる。
ところが、その小保方さんは、実は、重大な発見をしていたのだった。
◯分かりやすく言うと、これまでの科学の常識では、iPS細胞のように細胞分裂の
途上で体細胞が初期化するとされていたが、小保方さんの見た現象は、その常識で
あるはずの細胞分裂が起こらずに体細胞が初期化していくのを発見したというもの
である。この観察事実は、まさに「定説となっているウイルヒョウの細胞分裂説を
否定し、細胞は分裂ではなく分化で増殖する(生体には異常な環境である
人工的な刺激があると、細胞は分裂に転じる)」とした千島学説にスイッチを
入れてしまいそうである。小保方さんはこの現象からiPS細胞とはまったく異なる
メカニズムによってOct4陽性の多能性細胞(STAP細胞)が出来る可能性が
示唆されているとした。これは、いままでの科学の常識を覆す発見であり、
千島学説を提唱した千島喜久男博士が観察した実験事実を想起させる。
(ref/『ガン呪縛を解く』『隠された造血の秘密』)
なぜ、小保方さんは、このありのままの実験結果をもとに研究を進められなかった
のだろうか。これは、日本的な上司との関係ならではの事情から、「iPS細胞のように
(無限増殖できる)STAP幹細胞」を想定していた若山さんの意思に小保方さんが異論を
唱えられなかったためだという。しかし、実際には、STAP細胞は、分裂増殖しないで
多能性を得た細胞であるといい、その意味でも「STAP幹細胞」の樹立は困難が予想され、そのためか若山さんは細胞塊をマイクロナイフで切ったり、ES細胞の培地を使うなど、試行錯誤をしている様子が書籍から伺えた。
もしも、千島喜久男博士が小保方さんの共同研究者であったなら、おそらくまったく
異なる研究現場を用意したかもしれない。そもそも千島学説的な解釈をすれば、
iPS細胞は、人工的な所作(遺伝子操作)が加えられたからこそ、無限に細胞分裂
すると思われる。一方、STAP細胞は小保方さんが書いているように、iPS細胞とは
そのメカニズムが異なっているため、細胞分裂を介さないで初期化されてしまう。
小保方さんの本音は「このストレス処理後に起きる細胞の変化過程に対する私の
興味はさらに強まった」という記載にある。ここにある「ストレス処理後に起きる
細胞の変化過程」こそが千島学説との深い関連性を内包させている。
小保方さんが得た「STAP細胞」は自家蛍光ではなく緑色に光るOct4の遺伝子を
持つ多能性細胞であったことを小保方さんは一貫して主張し、一歩も譲っていない。
検証実験でも、ATP酸処理でSTAP細胞が得られたと以下のように証言している。
「8月に入り、私が作製した、脾臓由来の細胞をATPで酸処理した細胞塊の遺伝子
解析が初めて行なわれた。結果は、五つの細胞塊を解析した中で3つの細胞塊に
未分化状態を示す多能性遺伝子の春減があったというものだった。翌週には、
検証実験の中間発表が控えていた。丹羽先生のところで独立して行なわれていた
実験結果も、脾臓細胞由来のATP処理によってできてきた細胞塊に限定されていたが、
一定の再現性をもって多能性遺伝子の発現とOct4タンパク質の発現が観察されていた。
この実験結果は、検証実験の第一段階だったOct4陽性細胞塊の確認」の要件を
満たすものだった。このように、私が若山研で実験を行なっていた範囲でのSTAP現象は、確かに確認されている。」(P220)
理研は、こうした「STAP細胞(現象)存否」には関心がないかのように、実践的な
STAP幹細胞の樹立ができなかったことを受け、「STAP細胞は、ES細胞で、STAP
細胞はなかった」といういささか乱暴な説明を「最終結論」としてマスコミに流した。
では、今回のような場合、実験の結果は、どう評価されうるものなのだろうか。
どこまでを成功とみなされるべきなのだろうか。
いまでは、マスコミや科学コミニュティは、STAP細胞がなかったかのように
扱い、まさに新発見の事実を潰すことに躍起になっているかのように見えるのは、
私だけだろうか。
もともとSTAP細胞は、幹細胞の発見を想定していたヴァカンティの
アイディア下でスフェア細胞と呼ばれ、それを小保方さんが研究するチャンスを
得て、その後理研に持ち込んだものだった。このスフェアは、アニマルカルスに
変更されたが、これは、小保方さんが最もその細胞の性質のイメージを伝える
ものとして考案したものだそうだ。
植物の世界では珍しくない現象に、たとえば人参のように、切断面に
細胞塊ができると、それが種子のようになって、もう一つの個体を作り出して
しまうことがある(P93)。小保方さんは、そうした植物の再生力を多能性細胞に
投影して、「アニマルカルス(※カルス=植物細胞塊)」という名称を付けた。
トカゲやミミズの再生力ではないが、これも千島学説を想起させやすい。
「ストレス処理後に起きる細胞の変化過程に対する私の興味はさらに強まった」
という文面は、小保方さんの思いの原点を伝えて余りある。
STAP細胞は、笹井さんがアニマルカルスからさらに変更した名称であり、
より専門的で学問的な印象を与えるものとなった。刺激惹起性多能性獲得細胞
という訳語がそのまま、この細胞の性質を言い表している。ストレスを与えられた
細胞が多能性を獲得する自然現象の裏側には、STAP幹細胞が表現されているはずだが、
本人が言うようにアニマルカルスと言えば、比較的簡単に「幹細胞がキズを修復
していく」細胞の姿を想像しやすいと言えなくもない。
また、この幹細胞は、生体内では分裂ではなく分化増殖すると考えるのが
千島学説であるから、想像に過ぎないが、STAP幹細胞がiPS細胞のように何らかの
人工的な所作を加えられない限り、分裂増殖は困難なのではないのかと、思われてくる。
つまり、実験では再現は不可能なのかもしれないという思いも浮かんでくる。
千島学説的に言えば、それは、あまりにも自然に生体内で起きている現象
だからであると、考えられないだろうか。(あくまでも、私見…)
もう一度結論を言えば、「STAP細胞がなかった」というのは正しくない。
狭義の意味では、STAP細胞は存在していた。STAP幹細胞は樹立できなかったが、
小保方さんが実験で観察したようにSTAP細胞は存在している.。
現に、日本でこのとんでもない騒動が起きている間に、テキサス大学医学部
ヒューストン校やピッツバーグ大学医学部の研究者たちのグループがSTAP細胞と
同様に「損傷した体細胞が初期化した」実験事実を『ネイチャー』が運営する
オンライン電子ジャーナル「Scientific Reports」(11月27日付)で報告している。
さらに、幹細胞様の「iMuSCs細胞」が発現したという。
小保方さんも米国の研究者グループも、ストレスを与えられた細胞が初期化する姿を
観察しており、細胞が逆分化していくことを報告している点、非可逆性であるとされて
いる細胞の定説を覆していることになりはしないか…。これは、まさに千島学説的な
研究成果と重なるものである。単に多能性細胞としての実践価値のあるなしに
かかわらず、この重要な観察事実を無視することこそ非科学的なことではないだろうか。
さて、データの改竄といえば、抗ガン剤業界でもよくある話だと言われているが、
その割には、ほとんど問題にならないというのもおかしな話である。むしろこちらの
方こそ真相を知りたいと思う人も多いのではないだろうか。
ともかくも、競争の激しい科学研究業界の舞台裏は、思いのほかどろどろとした
ところのようだ。
アニマルカルス…STAP細胞研究はこれからの分野であり、「ストレス処理後に
起きる細胞の変化過程」の研究成果をぜひとも知りたいものである。
この研究をつぶす権利はだれにもないことだろう。またそうでなければ、
成熟した市民社会であるとは言いがたい…。
「Characterization of an Injury Induced Population of
Muscle-Derived Stem Cell-Like Cells(損傷誘導性の筋肉由来幹細胞様細胞群)」
http://www.nature.com/articles/srep17355
私の視点とは異なりますが、米国研究者グループが発見したストレス細胞の初期化と
幹細胞様細胞について報じる記事。山中伸弥さんの発言が興味深いので、参考までに↓
http://tocana.jp/2015/12/post_8277_entry.html