~~~千島学説の治癒論を想起
稲田陽子
千島学説では、免疫力を高め、全身病に備える
ように自然治癒力を大切に考えてガンに対処
しようとする。極めて自然な発想を内包しているが、
これは、千島喜久男博士の観察事実に基づく
理論によるもので、ガン細胞は、免疫細胞で
取り除かれた後、血液に戻っていくことも観察
している。いわばなり損ないの細胞であるガン細胞が
血液に戻ることが(赤血球の可逆分化説)、後に
別の研究者たちによって実証されているのは、
あまり知られていない。
Ips細胞による治療法は、そうした千島学説の発想を
想起させるものである。まさに体に優しく、自然に近い
治療方法としてガンや難病など多くの疾患を抱える
人々に希望をもたらしている。ガンであるなら、いままで
当たり前のように行われてきている抗がん剤、放射線、
手術の「三本柱」に革新的と思われる選択肢が加わったカタチと
なったと言ってよさそうだ。これが「第四の柱」
と言われている免疫療法だ。
ここ最近、ガン治療の前線に変化が訪れており、iPS
細胞によって自然治癒力を高める免疫療法に光が当たり始め
ている。この免疫療法は、ガン細胞と戦って弱ったT細胞を取り
出し、iPS細胞化により若返らせたものを増やして変化させる。
これを体に戻せば、蘇った免疫細胞がガンを取り除いていく。
まさに若返って、元の活力を取り戻した細胞として蘇り、
生まれ変わっている。この状態がiPS細胞技術で実現され、
多能性が発揮されて組織や体細胞に変容していく。
つまり、弱った細胞も、初期化されることで元の元気な細胞に
戻るわけである。この過程で4つの遺伝子が活用され、 iPS
細胞が作成される。この人工作業ゆえに「人工多能性幹細胞」と
呼ばれることになった。
iPS細胞の創始者でノーベル賞受賞者である山中伸弥さんは、
この研究は、あくまでも健康寿命を延ばすことが目的であり、
単に数値を伸ばすことだけではないと語っているのが印象的だ。
多くの可能性を秘めているiPS細胞だけに、さまざまな問題の
解決も必要だとも言われている。まずは、再生医療の実践で
困難な状況を抱えている人々への恩恵が望まれるところである。