豊かな森がSDGsを育む

~~~災害の時代、自給自足がキーポイント

稲田陽子

養老孟司さんの動画に森について語っているものがあり、
それを視聴しているうちに、どろ亀さんこと高橋延清さんの
ことを思い出していた。夫と私が『エコろじー』(環境情報
オピニオン紙)を発行していた頃、どろ亀さんに取材させて
いただき、興味深い自然界のことをたくさん学ばせていただいた
ことがあった。

どろ亀さんは自身の小さな山小屋まで案内してくださったり、お話
するときは、まるで自然界の番人でもあるかのように自然愛に
あふれていた。森の道すがら出会った青大将にも挨拶していた
ものだった。無類のお酒愛好家でもあり、その平和な時間に自作の
詩を朗読されるのも、晩年の人生の楽しみ方であったようだ。

そのどろ亀さんは、実は森林学者(東京大学名誉教授)であり、
「森こそが教室」であるとし授業は全くしない実学、現場主義の
名物先生として、知られていた。真摯に自然と向き合い、富良野市
にある東大北海道演習林で生涯、林学の研究、実践、指導に
フォーカスした。

演習林の森は、今も豊かに生育している。そのどろ亀さんの
森づくりの手法が「林分施業法」と言われ、今も継承されている
ものだ。これは、「生育する樹木の密度や種類、大きさ、天然
更新の良否などによって森林をいくつかのタイプ(林分)に区分し、
各林分の状態に応じて伐採や植え付け、保育といった作業(施業)を
行う方法」である。これにより、豊かで美しい森が、良い自然の
循環を編み出し、ひいては豊かな海を育むことになるわけである。

災害が多発する時代、こうした豊かな自然環境は大きな分岐点となる。
都市には、洪水や地滑りをせき止める森などない。大地震も、人々や
交通機関、大きな建物が密集しているだけに危険もさらに大きなものに
なってしまうのではないだろうか。道路が寸断されれば、物流も途絶る。
そんな脆さを潜ませているのが都市である。

そんな都市化の中で、養老孟司さんは、文明を享受する現代人は
自然を排除していると警鐘を鳴らしている。自分が自然の一部であることを
忘れ、いつの間にか自然と対峙し、終いには「田んぼが将来の」
自分であるという発想すら気づけなくなってしまったと言う。
この意識が現代社会の根底にあって、知らずに自然の恩恵を遠ざけて
しまっているのかもしれない。それが、食料の調達にも現れているのが
現在の状況だと言える。

とくに食料自給率が低いのが日本の現状で、先進国の中でも
際立って低い。100%以上の自給率となっている先進国の中で
38%というのが日本の立ち位置である。これでは、大きな災害が
起きてしまったら、元も子もない。

養老さんは、この現状から解放されるヴィジョンを描いている。
それは、小さな単位で自給自足の共同体を全国に展開し、それと
ともに健全な森とそれによる豊かな沿岸の海を育てるというものである。
実現すれば、SDGsの解消になることも考えられるという。
もっとも、これには大きなプロジェクトが必要であるが、あながち
不可能な話でもない。少なくとも森を育てるのなら、どろ亀さんの
知恵を生かせばいい。豊かな畑ならば、土壌を汚さない福岡
正信さんの不耕起栽培もある。
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