「子どもの権利条約劇」を札幌から世界に発信
(「エコろじー」24号より)
「子どもの権利条約」をご存じですか。これは国連が1989年に採択したもので、翌90年に発効、日本は109番目の国として、1994年に批准しました(現在の批准国は192ヶ国)。つまり日本はこの条約に批准した他の国々とともに、「子どもの権利条約」を守ることを、世界に向けて「約束」したのです。
にもかかわらず世界と日本の現実は、「子どもの権利条約」が守られているとはとても言えません。そもそもこんな国際条約があることすら、あまり知られてはいません。
しかし「子どもこそ未来のシンボル」であることを考えるとき、「子どもの権利条約」の意味するものを広く社会にメッセージしていく必要があるノと、いま札幌で、子どもの権利条約を劇化して、広く世界に発信して行こうという動き(「MSCシアター」創設準備)が湧き起こっています。
そこで今号では、この「MSCシアター」に秘められたメッセージ、つまりその意味するものを考えてみることにしました。
●子どもの問題は大人社会の問題であり責任
「子どもの生きる権利」が保証される社会を!
「MSCシアター」は、詩人原子修さんの「子どもの権利条約童話ノ月と太陽と子どもたち」を劇化して公演し、世界に「子どもの権利条約」の意図するものを伝えていくことを目的に創設されるもの。
本紙のコーディネイトにより、詩人原子修さんを軸に、会長には庄司昭夫さん(〈株〉アレフ社長)、演劇家金田一仁志さんなどの有志が結集。その設立準備会が7月24日に発足し、秋からは本格的な活動が開始される予定だ。(MはMoon、SはSun、CはChildrenを意味しています)
その背景にあるものは、いま子どもたちが多様な危機的環境に置かれているという共通認識で、あの中学生幼児殺人事件もその一つ。
子どもの問題はそのまま大人社会の問題でもあり、社会の構造的ひずみや不条理が、多くの子どもたちを犠牲にしているといっても過言ではないだろう。
実際、「児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)」は、「子どもたちの生存、保護、発達、参加という包括的権利を保証しなければならない」としている。つまり、大人社会が、子どもたちのための社会環境を整備する責任を負っているのだ。
しかし、目を世界に転ずれば、貧困、失業、戦争、環境悪化等々で、「子どもの生きる権利」が大きく阻害されている現実がある。
今回のイラク戦争でもたくさんの子どもたちが殺され、またイラク攻撃で使用された大量の劣化ウラン弾の影響により、今後も多くの子どもたちの未来が奪われていくであろう。
子どもたちの生きる権利から見た場合、戦争ほどひどく子どもの人権を奪うものはない。それゆえ反戦・非戦の訴えもまた、何より「子どもの生きる権利」といった視点から世界に発信されていく必要があると考える。
●いま子どもたちは、どんな環境に置かれているか
いま子どもたちは、どんな環境に生きているのだろうか。
世界的に見た場合、「毎日3万人以上もの子どもたちが、飢えや戦争等々で、5歳までに亡くなっている」と、原子さんは言う。
貧困による過酷な労働や少年兵、少女売春の強要、ストリートチルドレンなどの悲劇も多い。これらがすべて、子どもの生きる権利をひどく踏みにじっているのだ。
さて、日本はどうか。
平和で経済先進国日本の子どもたちは、幸せな成長をしているのだろうか。確かに戦争や飢餓、過酷な労働などで苦しむことはないだろう。
が、子どもの犯罪や自殺、いじめ、鬱病、不登校等々を考えるとき、それは幸せな風景からはほど遠い。無意味な受験競争もまた、子どもたちが本来持つクリエイティヴなパワーを歪ませている。
一方、経済の歪みから来る就職難や不安感も、子どもたちの心を暗くする。加えて国家が遺した気が遠くなるほど莫大な借金や、平和憲法を軽視して海外の戦争に参加していこうとする不気味な空気もまた、子どもたちから未来の希望を奪っていく。
いま多くの中学生が鬱病に追いやられているというが、それは決して子どもたち自身の責任ではない。多様で複雑な不安環境と、食や建物(学校)などの汚染環境が、子どもたちの精神を不安定にしていると見るべきだろう。
●子どもは未来のシンボル
国連に新たな息吹きを!
こう考えると、子どもの権利条約こそ、さまざまな問題を考える上でのマスターキーであり、すべての政策立案の基本にすべきものだろう。要するに、子どもたちのことを考えることは、人類の未来を開くことと同義。だからこそ、忘れられかけたこの条約を、広くメッセージしていくことに意味がある。
イラク戦争は国連の存在をあやういものにしてしまったが、国連を軽視しては新たな秩序は生まれない。が、国連が決議し日本も批准した「子どもの権利条約」を軸として世界に平和を呼びかけていくとき、そこから改めて国連の存在意義が鮮明に浮かび上がってくるのではなかろうか。
その意味で「MSCシアター」は、国連に新たな命を注ぐ契機にもなりうる。そしてそうした動きが、札幌から生まれたこと自体意義深い。それだけに本紙では、今後もこの動きを紹介していきたい。
【追記】
本紙では「非戦」を願い、「ハロー・ディア・エネミー(こんにちは!敵さん)」シリーズでさまざまな絵本を紹介してきました。その過程で原子修さんの作品「月と太陽と子どもたち」に出会い、4月には原子修さんときくちゆみさん共演による「戦争中毒・アメリカ報告」も開催しました。
「MSCシアター」はそうした出会いを通して構想され、実現の運びとなるものです。
札幌から世界に向けて旅立つこの平和使節団(劇団)を、市民のみなさまによって支えていただけますなら幸いです。
●原子修さんの詩集「受苦の木」が、第2回ポイエーシス賞を受賞!
人間存在の本質に迫る詩集を広く顕彰しようという目的で創設された「第2回現代ポイエーシス賞」に、原子修さん(札幌在住)の詩集「受苦の木」が選ばれた。
創造性に特に秀でた詩集に与えられるこの「ポイエーシス賞」は、中堅以上の詩人300人と推薦詩集の中から、非常に厳しい選考を経て選ばれるもの。(第1回受賞は、笹原常与詩集『假泊港』)
詩人・原子修さんは「MSCシアター」創設のキーマンでもあるだけに、今回の受賞が、平和に向けてのその第一歩を踏み出す大きな力になることを期待したい。
詩集『受苦の木』
発行:青樹社 価格:2,200円
※「ポイエーシス」は「作る・創造する」という古代ギリシアで、「ポエム」「ポエジー」の語源。