【粘土団子による砂漠の緑地化】
●タネも積もれば…
福岡正信さんの自然農法は、米麦づくりはいうまでもなく、沙漠の緑地化においても見事な成果をあげている。福岡さんは米づくりと同じように、あまりお金をかけず、手間をかけず、時間をかけず、それでいて、砂漠化した不毛の大地を、たちまち緑ゆたかな楽園に蘇られせてしまうのだ、
その秘密はいったいなにか。一言で言えば、「粘土団子」をばらまくこと。人間がやることはただそれだけで、あとはすべて自然の力に任せてしまう。
実際、実に簡単なこの方法で、福岡さんは世界各地の広大な不毛の砂漠を、見事な緑地に変えてきた。
ところで「粘土団子」とは何かということだが、これはさまざまなタネを混ぜ合わせて、粘土でくるんだもの。それがサバンナ状態の土地にまかれたとき、そこからまさに奇跡にも思えるようなドラマが始まっていくのだ。
が、広大な砂漠にまく粘土団子を作るには、たくさんのタネが必要になる。そこで本紙では、本紙や各ルートを通じて「タネ集め」を呼びかけてきた。生ゴミとして捨てている果物や野菜のタネが、砂漠の緑地化に大きく貢献する。それだけにこれからもさらに広くタネ集めを呼びかけていきたい。
●ギリシアに蘇る緑
今年の5月、テレビ朝日の「素敵な宇宙船地球号」で、ギリシアで行われている緑地化の模様が紹介された。その主役はパノス・マニキスさん。もちろん福岡さんから粘土団子の不思議な威力を学んだ人物の一人だ。
番組では、深刻な砂漠化に悩むギリシアの大地が映し出され、そこにマニキスさんたちが粘土団子をまく。すると半年後には、もう緑の芽生えた豊かな風景…。こうして粘土団子が、ギリシアのみならず世界の砂漠に、いのちの風景を生みだしている。
●粘土団子とは?
なぜ粘土団子が、砂漠に緑をもたらすのか。
粘土団子は、耕さず、肥料をやらず、除草もせずに作物を育てるためのいっさいが集約されたもので、早い話この中に、実は耕すことの意味、肥料をやることの意味などのすべてが詰め込まれている。
作り方はしごく簡単で、とにかく手当たりしだいにいろいろな種を百種類以上集めて混ぜ合わせ、それを粘土といっしょに混ぜて団子状にする。それを適当にばら蒔くと、その中から環境と時期に合ったタネが芽を伸ばし、やがて根を張って育っていく。
百種類以上もあるタネの中からどれがまず芽を出すか、それは自然そのものが決めてくれること。生命力のないタネや、その土地の環境に合わないタネは当然芽を出すことがない。が、たくさんのタネをいっしょに蒔けば、必ずやその中のいくつかの種が芽を出すことになる。つまりそこで育つにふさわしい種だけがまず芽を出し、土に根を張っていくというわけだ。
●まずは草原づくり
粘土団子による砂漠の緑地化…。このアイデアは、実は自らの体験から生まれた。
福岡さんは失敗したミカン山を手に入れ、それをわずか十数年で桃源郷に変えてしまったが、そのときに使ったのが粘土団子だった。つまり、さまざまなタネを混ぜて粘土にくるみ、それを草も生えない不毛の土地にばらまく。するとまずウリ科の植物が、粘土に含まれた水分と養分の力で芽を出し、根を伸ばす。特にハヤトウリの場合は成長が目覚ましく、一本から平均三千から五千もの実がなり、一反もの面積を緑の葉っぱで覆ってしまう。そしてその葉っぱの下に生まれた環境で、さらに別のタネが次々と芽を出し、やがて不毛の大地に緑の草原が蘇っていく。
草が生い茂ればしめたもので、そこには多様な虫たちが集まり、虫を求めて野鳥も集まってくる。もちろん鳥たちは糞を通して別のタネも落としていく。こうして草や虫や鳥たちの協働により、不毛の大地に緑が広がる。福岡さんの緑地化は、まず草原づくりから始まっていくのだ。
●世界各地で大きな成果
かつて不毛だった福岡さんの山に、いまや30種類以上の果樹が茂り、足下にはさまざまな野菜が育っている。その様は、畑というよりはジャングルそのもの。福岡さんは機械も肥料も農薬も使わず、水の散布もせずに荒地を桃源郷に変えてしまったのだ。
この小さなモデルが、いま世界の砂漠の緑地化に希望を与えている。実際、すでにインド、中国、アフリカ、アメリカ、ヨーロッパ各地で大きな成果を挙げ、今年はアフガンの砂漠にも粘土団子をまいた。日本の家庭で集められたタネが、世界の砂漠を緑化しているのである。