臨界へ、さまざまな気象変化

寒冷化と人為的な温暖化とは…

稲田陽子

雲の姿が、それぞれ意匠を凝らした芸術作品のように見える
 ことがある。立体的で勇壮なフォルムや優雅に流れる繊細な衣を
 思わせるようなフォルムなど…思わずその美しい形に感動する
 体験も珍しくなくなった。水蒸気が多くなってしまったのか、
 空のアートが盛んに繰り広げられている。

異常気象という言葉も、私たちの日常に日々すっかり定着した
 感があるが、その深刻さは、これまでに類を見ない。それも、
 日時が進めば、それだけ状況はひどくなっていくのだから、
 未来の気象展望をどう想像すればいいのか、その答えは明るい
 ものばかりではなさそうだ。

実は、私は、地域のクオリティーニュースペーパー(情報オピニオン
 ペーパー)であった『エコろじー』(稲田芳弘発行人/朝日新聞に
 折込み)の取材で温暖化について北大の大学院の教授の方々を訪ねた
 ことがあった。ちょうどそのころ、数勢となっていた IPPCの方針で
 地球温暖化が決定的となり、寒冷化説支持派の研究者たちにも
 またそれに従わざるをえないような空気が及び始めていた。

必ずしも、私が取材した専門家がすべて温暖化に賛成していた
 わけでもなく、それぞれ本音と建て前があると思われた。
 ある教授は、寒冷化説を完全に否定してはいないようであったが、
 取材には現実的に応対された。いま思えば、おそらく、周期的な
 寒冷化説にも根拠があるとしながら、人為的な温暖化を認める
 立場を取っていたというのが妥当かもしれない。

当時も温暖化については、どの教授も異口同音にその危険性を
 危惧していた。つまり、臨界を過ぎれば、どんな気候、気象が
 現れるのか日々予測ができないというわけである。例えば、
 竜巻や暴風、洪水、干ばつが頻発し、しまいに季節がなくなる
 などの話に及んだ。とくに興味深いのは、温暖化により北海道と
 本州の間にあるブラキストン線が北上し、北海道の生態系が
 失われていくという予測だった。北海道は、1万年ほど前に
 ユーラシア大陸から分離したため、本州とは異なる独自の
 生態系を構築し繁栄してきた。

北海道のお米も美味しくなったと言われる所以も、この温暖化が
 大いに関与しているのは言うまでもない。このままいくと、さらに
 北の地域(よもやシベリア?)にお米の一大産地が現れるのだろうか。

温暖化の指標として森林限界という概念もある。これについては、
 当時、高山植物の世界でリアリティを持って観察されていたように、
 温暖化は、すでに高山植物の劣化にも影響を与えていたらしい。
 森林限界は明らかに上昇していると報告されていた。

 この取材から18年ほどの年月が過ぎている。確かに当時
 得られた取材内容は、現在の異常気象を彷彿とさせ、日々
 リアルさを増している。これはまぎれもない事実である。
 さらには、懸念されているグリーンランドの氷床が年間
 0.8ミリの割合で融解しており、北極海の氷も溶けてもろく
 なっているという。

もっとも、気象の世界では、だいたい30年の観測を、気象傾向の
 目安にしているそうだ。北大より以前に気象協会で取材した時には、
 「気象の世界は30年の観測をしないと、明確なことは言えない」と、
 慎重で煮え切らない回答をいただいたこともあった。ただし、
 本音のところでは、「寒冷化説のはずなのだが、温暖化への疑いも…」
 といった含みも感じられたのが印象に残る。

ここでもお分かりいただけるように、当時は地球は寒冷化に
 向かっているという定説の名残のようなものがあった。それが
 二酸化炭素原因説が現れるや、一気に IPPCの方針が世界を
 席巻してしまった。政治が介入し、二酸化炭素がどんどん
 失われる政策が優先されるようになっていったのだ。

しかし、当時も話題になっていたが、温暖化は、都市化による
 ヒートアイランド現象が大きな原因ではないのかという説が
 いまだに根強くある。しかも最近は、「スーパー猛暑」と
 名付けたくなるような暑さで熱中症が急増し、その対策で
 エアコンが必需品のようになっている。これは大気をさらに
 熱くしてしまうことになるのだから、まさにかなりの悪循環を
 招いているという見方も注目されるところだ。

いまや、原因が何であれ、地球が温暖化現象を起こしている
 のは、誰も否定できない事実と言える。とはいえ、これが
 人為的な温暖化である限り、寒冷化説も否定されることは
 ないのかもしれない。地球の氷期には周期があり、これに
 従えば、現在の地球は寒冷化に向かっていることになるからだ。

ダルトン極小期(1645-1715)と
マウンダー極小期(1790-1820)

実際に歴史を紐解けば、ダルトン極小期(1645-1715)や
 マウンダー極小期(1790-1820)などのミニ氷河期が存在し、
 その期間は地球が寒冷化傾向にあったと言われている。
 これは、太陽活動が不活発だったことや火山活動が活性化して
 いたことが関係しているとされるが、現在の太陽活動も同様に
 活性化が見られず、黒点の数も減っている。そうした太陽の
 活動の状態から、寒冷化説も根強く浮上している。また、
 最近の火山活動も気になる点だ。

果たして、二酸化炭素が原因で温暖化を招いているのか。ある
 言説によれば、1940年から1970年まで地球の二酸化炭素は
 それ以前よりも増加していたにもかかわらず、地球の温度は
 下がっていたのだという。一体これは何を意味するものだろうか。
 二酸化炭素の増加傾向に比例せず、気温の下降が認められている
 わけである。これが事実なら、明らかに、二酸化炭素の増加が
 意味するものを覆している観測結果になってしまう。

さまざまな異論もあるなか、寒冷化説は間違いとされ、一般には
 二酸化炭素を原因とする温暖化説が定着するようになった。
 しかし、現在の二酸化炭素の濃度は、地球全体として史上
 稀に見るほど低くなっているという報告もある。

もともと二酸化炭素は、生命の発生には欠くべからざるもので、
 植物の繁栄には不可欠なのは周知のことだろう。光合成が盛んに
 行われる環境ほど、生物が繁栄するのが通常のあり方でもある。
 この大切な大気の成分が薄くなっていけば、生物である人間も
 生きずらくなりはしないかと懸念の一つも湧いてくるのでは
 ないだろうか。

第一、二酸化炭素を減らしても、一向に異常気象は収まらず、
 かえって酷くなっているのが実情である。確かに、人為的な
 温暖化は事実であるが、これはあくまでも、地球の周期的な
 変動を考慮した上で問われるべきではないかと、そんな疑問も
 よぎる。

二酸化炭素は、温暖化ガスであることから、温暖化の原因の
 一つであることには相違はないのだろう。とは言っても、他の
 要因を考慮しなければ、しまいには植物も減っていき、
 アスファルトやエアコンからはおびただしい熱の放出が続く。
 すると、異常気象はますます亢進し、季節の移ろいもなく、
 日常的に竜巻や猛暑、異常な猛威を振るう嵐や雪嵐に晒されて
 ゆくのは想像に難くない。それは、もう私たちの暮らしのすぐ
 そばまで迫ってきていると言って過言だろうか。

人為的な温暖化は、二酸化炭素原因説に関わらず進んでいるのは
 否定しようもないところまできている。
 これは、20年近く前に取材した『エコろじー』の記事そのままに
 今の現実と重なってしまった。地球の寒冷化が同時に
 進行していたとしても、ここまでの気候変動を招いている現実に、
 それがどれ程の「効能」となるのか、誰も知るよしもない。
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